フィレンツェの伝統的なジュエリーのスタイルの代名詞が『透かし彫り』と呼ばれる技法です。
『透かし彫り』と言うように、まとめて呼ばれる事が多いのですが、『透かし』と『彫り』という別々の二つの技法を組み合わせて制作します。
今回はそのうちの『透かし』についてご説明します。
透かしの作り方
透かし全般のことをトラフォロ(Traforo)と呼びます。
ご説明…と申したものの、作業としてはいたってシンプルなものです。
1.直径1㎜以下の細いドリルを使って、面に対して法線方向に穴をあける。
2.糸鋸の刃を通して任意の形状に穴を広げて整える。
透かし用の糸鋸とドリル
たったこれだけの単純作業ですが、穴の位置決めや糸鋸刃等の工具の選定から使い方まで、職人さん毎に個性的なノウハウが色々ございます。
透かしに限った話ではありませんが、同じ様なものを作っていても各人によって微妙に工具の好みやアプローチが異なっている事が多々あり、興味深いポイントでもあります。
透かし作業の様子
代表的な透かしの例
セミーノ(Semino)
小さな種のような形状の透かし。これを幾何学的に並べた模様がフィレンツェスタイルでは多く用いられます。二つのセミーノをつなげた、細長いひょうたんのような形状のセミーノも時々見られるデザインです。
メレダイヤ等の彫り留めと組み合わせて使われる事が多いです。
ニードダーペ(Nido d’ape)
直訳すると『ハチの巣』。その名の通りの意匠ですが、実際のハチの巣とは異なり必ずしも六角形の穴とは限らなかったりします。
スペースに対する、穴の数や並べ方のバランスにセンスが試される技法です。
糸鋸でギリギリまで透かしていくので、制作には集中力と時間を要します。
シャープペンの芯(0.5mm)との比較写真から、透かして残った地金幅は0.18〜0.20mm程度かと思います。板の厚さはある程度余裕をもって設計してあるので、そこで強度を担保している作りとなっております。
しかしながらデリケートかつ高価な製品なので、ご着用の際もお取り扱いには少し注意が必要です。
・その他の透かし
唐草模様やモダンな幾何学模様等、多様なパターンがございます。