ハンドメイドのジュエリーがどのように作られているのか、なかなかイメージがつきにくいかと思います。
そこで、今回は大まかなジュエリー制作の流れや使用する工具を紹介いたします。
写真と解説は以前、FabLab SENDAI FLAT様のアドベントカレンダー用の記事を執筆した際のものを、加筆修正して掲載いたしました。
ジュエリーの作り方には大きく分けて二つの方法がございます。
・ 地金から作る方法
・ 鋳造で作る方法
前者は地金(金や銀、プラチナ等)の部材を延ばしたり曲げたりしてパーツを制作し、それらを接合しながら作っていく方法。
後者は鋳型に溶かした地金を注ぎ込んで作る方法で、ジュエリー業界では蝋型をベースにしたロストワックスという鋳造法が一般的です。
今回はジュエリー制作の最も基礎となる部分の解説なので、『地金から作る方法』をご紹介いたします。
昔ながらの職人さんは『地金から作る方法』の事を『手作り(手造り)』と呼んでおりました。
かつては、例え一点物であっても、鋳造品を『手作り』とは呼ばなかったというお話を職人さんから伺ったことがございます。
しかし、近年では『手作り』や『ハンドメイド』といった言葉の解釈が、人によって様々になってきているように感じられます。
そういった状況もあり、少々冗長ではございますが『地金から作る方法』と私は呼んでおります。
1. デザイン画を描く

まずはデザインを決めるところから。この時は数字の9をモチーフにというお題でした。
ペンを動かしながらアイディアスケッチ。
頭の中だけで考えているとなかなか案が思い浮かばないものですが、手を動かして落書きしているうちに、不思議なことイメージがちょっとづつ出てきます。
私の場合はこんな感じで、落書きに近いラフスケッチだけ描いて制作することが多いです。
なぜなら、デザイン画の時点で細部を決めきってしまうよりも、実物を制作しながらバランスを整えていく方が、結果的にジュエリーとして美しく仕上がると私自身は考えているためです。
各ブランドさんによって、デザイン画についての考え方は異なるかと思いますが、デザイナーと職人が分業の場合や、制作前にお客様に完成形を提示する必要がある場合は、よりデザイン画らしい清書した絵を描くことになるかと思います。
2. 主な工具の紹介

制作に使用する、主な工具を紹介いたします。
・ピンバイス
ドリル刃等の先端工具を取り付けて地金に穴あけや、宝石を留めるための座ぐりの微調整に使用。場面に応じて電動リューターと使い分けます。
・コンパス
両端が針や尖った先端になっており、地金にマーキング(ケガキ)をするために使用します。切断箇所や均等分割の目印を下書きするのに役立ちます。
・ヤスリ
地金を削って形を整えるために使用。形やサイズ、面の粗さも様々ございます。
・ヤットコ
掴む道具です。手では保持しにくい形状の小さなものや、曲げ加工など力が要る場合に使います。
・糸鋸
地金の切断や透かし細工、裏抜き等に使用します。用途に応じて鋸刃の番手(サイズ)を変更します。
・洋彫りタガネ
主に宝石の彫り留め(インカッサトゥーラ)と、装飾彫り(インチジオーネ)に使用します。
・圧延ローラー
地金を圧し延ばすための機械です。板材や角材を作るときに使います。上下二本の鋼鉄の円筒の間に、地金を通して薄く延ばします。円筒の上下間隔は調整する事が可能で、少しずつ狭めていく事で薄い板材になります。パスタマシンを想像していただくとイメージが近いです。
・ガスバーナー&ふいご
地金パーツの接合(ロウ付け)や地金の焼き鈍しに使います。ふいごは足踏みポンプのような物で、バーナーに送り込む空気の量で火力をコントロールします。
・線引き板
線状の細長い部材を制作する時に使用します。丸線用の他、角線用や半丸線(甲丸)用など種類も様々あります。
・球台&矢坊主
地金をドーム状や半球状に加工する鉄工具です。
・ヤニ
石留めや装飾彫りの際に、ジュエリーを加工作業しやすいポジションに仮固定するために使います。ヒートフォーム等の熱湯で柔らかくなる樹脂もその仲間です。
3. 基本部材の制作

まずは地金を『板材』や『角棒材』、『丸線材』といった部材を作ります。
ジュエリー制作はこのような基本的な部材を加工してパーツを作ります。
・地金について
今回の作例ではSV925の地金を使用しております。
私の場合は使用頻度の高い種類の地金合金を、加工しやすいサイズの塊や板で仕入れて、それらを用途に合わせた寸法に加工調整して使っております。
完全に最初から地金づくりから始める場合には、純金や純銀を割金と呼ばれる金属とともに決まった比率で溶解して、K18やSV925といった合金を作る所から行います。
・焼き鈍し
地金を加工する前や、加工の途中で『焼き鈍し』という行程を行います。
金属は曲げたり叩いたりといった加工をしているうちに加工硬化という現象が起こります。科学的な詳細は専門書を参照していただくとして、加工硬化が起こると地金が硬くなり、形を変えにくくなります。
そのまま地金の加工を続けると、ひび割れや破断の原因となります。
そこで硬くなった状態をリセットして、再びしなやかな状態に戻す作業が焼き鈍しです。
具体的にはバーナーで地金を熱して、ほのかに薄ピンク色になったところで水の中に入れて急冷します。
焼き鈍しの後は見違えるほどに地金が柔らかくなります。
制作中に地金が硬くなってきたタイミングで、適宜焼き鈍しを繰り返し行います。
・板材と角材の制作
圧延ローラーに通す事で地金の板厚を調整して、必要な厚さの板材を作成します。
上下幅を徐々に狭めながら何度も地金を通し、少しずつ薄くして目的の板厚の部材にします。
今回は1.1㎜厚と0.8㎜厚の板材を作りました。
また、圧延ローラーの写真をよく見ていただくと、平らなローラー部の隣にひし形の大小の角溝が彫ってある部分がございます。
そこへ棒状の地金を通すことで地金の角材が制作できます。
・線材の制作
丸線材を作るためには線引き板という道具を使います。
細い角線を丸穴に通すことで丸線が制作できます。角線は先ほど紹介したローラーの角溝を使って作ります。
線引き板の丸穴は、裏側が広く表側が狭いテーパー状の穴になっております。
裏から表に地金を通し、先端をエンマと呼ばれる大きなヤットコで掴んで、引き抜く事で線材が細長くなります。
大きな丸穴から小さな丸穴へと順番に通していくことで、徐々に細い丸線材になります。
この時はφ0.7㎜の丸線材を作りました。
4. パーツの制作1

これまでに作成した部材を糸鋸やヤスリ、各種治具で加工してパーツを作ります。
板材にコンパスをつかって円形のケガキ(下書き)して、糸鋸で切断、ヤスリで整え、丸板を作りました。
一例として丸く切り抜いた板材を、球台と矢坊主という治具で薄いドーム型に成形する様子を掲載しました。
球台は大小の半球状のくぼみのある鉄の治具。矢坊主はドラえもんの腕のような形の治具です。
これらの二つの治具の間に、良く焼き鈍した板材をはさんで叩くことで、ドーム状に成形することができます。
5. パーツの制作2

ここでは『バチカン』と呼ばれる、チェーンを通すためのパーツと、本体のベースになる花びら型のパーツの制作行程の写真を載せました。
バチカンは薄い板材にケガキして菱形に切り出したものに、丸線材をバーナーで接合(ロウ付け)。
ヤットコで掴みながら、中心からU字に曲げて作りました。
花びら型のパーツはドーナツ形に切り出した地金を、球台と矢坊主でドーム型に成形。
縁にコンパスで等間隔に目印をつけ、そこへ糸鋸で切り込みを入れ、ヤスリで削って花びら型に整えます。
接合後に磨きにくくなる所や、彫りにくくなる箇所等はあらかじめ加工しておきます。
パーツ作りは基本的に、コンパスやタガネを使って下書き、それを目印に糸鋸で部材を切り出し、ヤスリや治具やヤットコで成形、バーナーで接合することの繰り返しです。
6. パーツの接合(ロウ付け) ~ 石留めの準備

これまでに作った部品を組み立てて、バーナーでロウ付けします。
ロウ付けとはロウ材と呼ばれる合金を使った接合方法です。ロウ材はジュエリー本体の地金よりも少し融点の低い合金です。
ロウ材には融点の高いものから低いものまでいくつかの種類がございます。
状況に応じて使い分けますが、基本的には融点の高いものから使います。
ロウ材の小片を接合するパーツの間に置き、バーナーで加熱することで隙間に溶け流れて接合されます。
銀は金やプラチナと比較して、熱伝導率の高い金属です。
【熱伝導率が高い≒熱が周囲に逃げやすい】という事なので、接合箇所を局所的に加熱するよりも全体の温度を上げるようにしてやると、綺麗にロウが流れて接合しやすいかと思います。
7. 石留め(彫り留め)

石留めの技法はいろいろありますが、今回は地金の面に穴をあけて、タガネを使って宝石を留める『彫り留め』を行います。
リューター又はピンバイスにドリルを取り付け、石を留める場所に穴あけ。穴あけはドーム状の面に対して、法線方向にドリルを立てる事を意識します。
裏側に明かり取りを糸鋸で細工。表から見ると丸穴、裏から見ると四角く広がった穴になります。宝飾品の作りの良し悪しはこういった裏側の細工の差で大体分かると言われております。
項目が前後しますが、ここまでは前項の画像Fig.6を参考にしてください。
ここからはヒートフォームと呼ばれるヤニの一種で本体を固定します。
加工しやすい向きや形態に固定することで、力を入れやすくなり、ジュエリー本体の予期せぬ変形を防ぐことができます。
ピンバイスに宝石の直径と同等の先端工具を取り付けて、表側の穴をすり鉢状に広げます。
宝石を広げた穴にセットした時に、テーブル面(石の上面)が地金面と同一の高さに収まるように微調整。
一旦石を取り出してから、爪になる部分をタガネで彫り出します。
爪の形が彫り出せたら、再び石を収めてタガネで爪を寄せ起こしていきます。石が傾かない様に対角にある爪を少しずつ寄せ、留めます。
仕上げに半球状のタガネを使って爪の形を丸く整えます。
8. 装飾彫り(インチジオーネ)

最後にインチジオーネと呼ばれる装飾彫りを隙間なく全面に施します。
使用するタガネは日本の彫金で使われるタガネとは異なるタイプのものです。
国内ではちょっとマイナーな『洋彫りタガネ』と呼ばれるもので、イタリアでは“Ciappola”と呼ばれていました。
刃物に小さなドアノブの様なグリップがついている形状をしております。
日本古来の彫金で使われる『和彫りタガネ』は左手にタガネを持ち、右手に持った小さな金鎚でタガネのお尻を叩くことで彫っていきます。
一方で私の使用している『洋彫りタガネ』は利き手に持って、そのまま手の力だけで彫っていきます。
両者の違いは文章だけでは説明が難しいですが、筆とペンの違いに近いような気がします。
和彫りタガネはダイナミックでメリハリのあるキッチリとした線、洋彫りタガネは淡く繊細な線がそれぞれ得意です。
洋彫りタガネの刃の形状は三角刀“Ongella”、丸刀“Mezza-tonda”、平刀“Piana”の三種の形状と、絹目テクスチャ用の“Rigata”があります。それぞれ大小各種サイズがあり、使い分けながら彫刻します。
円形のフチに粒状の装飾“Mille-grane”を、自作のミルタガネで入れました。
9. 仕上げ ~ 完成

最後にバチカン金具を本体側の丸カンに通し、カシメ閉じてから余分な線材を切除。
細かい部分の磨きや仕上げを行って完成です!
長文をお読みいただき、ありがとうございます。
お疲れ様でした。
